浄土真宗 正信寺
正信寺
Tweet

住職のこぼれ話(16)

素晴らしい業績を残した方は、腰の低い方が多いように思います。 また、そういう方は、あまり専門的知識のない一般の人にも気さくに接してくれるように思います。

IPS細胞の研究をされている山中教授などもそのような人の一人ではないかと思っています。

気さくな偉人 

スペイン・ポルトガルツアー

今から20年ほど前になります。スペインとポルトガルのツアーに参加しました。 私たちは、快晴のスペインのバルセロナに降り立ちました。今でも印象に残るその偉人との出会いも偶然の出来事でした。

観光のルートは、カタロニアの建築家アントニ・ガウデイ設計のマンションの外観や公園をいくつかの見て回るものでした。 ガウディの建築作品は、見た目にも特色にあふれていますので大いに関心を持っていました。 外観に曲線を多用し、割れた多色のタイルを散りばめたデザインが特色で、見方によっては若干子供じみたような明るい感じがします。


バルセロナ観光の最後にサグラダ・ファミリアというカトリック教会に案内されました。 幾つかの高い塔が聳えていましたが、まだ建築中なのでクレーンが林立し、庭には石の塊がゴロゴロありました。

サクラダファミリア

サクラダファミリア

入口方向に歩いていくと、なんと法被(ハッピ)を着た日本の若者らしい人が石の間にいました。 我々を見て、日本人と思ったのでしょう、手を振ってくれました。 我われもこんなところで日本人が働いているとは思っていませんでしたので、驚いて手を振ったものでした。

その方が、後に有名となった若い外尾悦郎さんでした。 2001年にネスカフェのCMに出ていた時には、本当にびっくりしました。 また、テレビなどでサグラダ・ファミリアやカタル―ニア地方の歴史、ガウディの紹介、外尾さんの活躍などが特集として紹介される度に、 旅行で見分したことが懐かしく思い出されます。


一介の日本人観光客にも温かく接してくれるような、分け隔てない人柄がなければ、外国人の石工を束ねて建築を円滑に進めることはできなかったのではないかと思います。 あの時からもう約20年、サグラダ・ファミリアの建築は完成に近づきつつあり、外尾さんも還暦を過ぎ、 サグラダ・ファミリアの専任彫刻家・京都嵯峨芸術大学客員教授となっていてさらに御活躍中です。

最近の完成予定はガウディの歿後100年に当たる2026年に完成予定予定とのことです。 ユネスコの世界遺産にも登録されました。 バルセロナオリンピックまでに完成してほしいとの声もありましたが、贖罪教会なので建築費用は寄付に頼っているとのことで、 教会が「神はお急ぎでない」と答えたのは、有名な話です。


サクラダファミリアの形の秘密

外尾さんの話だけではなく、サクラダファミリアの建築はいろいろなことを教えてくれました。

現代の日本の高層ビル建築と比較して、サクラダファミリアは旧式な設計方法ではないかと思ったのですが、石やコンクリート建築は、 西洋の方が歴史は古く、優れた技術を持っているのではないかと思いました。

ガウディの細かい設計図は、実はスペイン内戦のため棄損してしまったそうです。 教会の中には模型に砂袋をぶら下げて、建築構造が荷重に耐えられるか検証している見本がありました。 サクラダファミリアの塔が放物線の形をしているのは、紐と砂袋の重りを駆使して構造計算を行っていたからということです。 昔から、このやり方で高層建築を設計していたようです。現在はコンピュータ荷重計算をしますが、現代の設計法でも矛盾のないやり方だそうです。 私が教会の中で見た模型は非常に重要なものということがわかりました。


ペテロの否認の石像

削りかけの石が並ぶ中を歩いて、教会の中を進むと、建物の正面にあたる西の入口(façade=ファサード)に出ました。 扉の上には、キリストが十字架上で磔刑されている大きな白い石の彫刻がありました。 その彫刻を見ているうちに、キリスト磔刑の右下に、くすんだ白の彫刻に私の目が釘付けになりました。


その彫刻は、写実的ではない粗削りの塑像ですが、斜めに頭をたれ、衣装の布を体にまとい、首を斜め前に傾け、非常に悲しんでいる表情でした。 聖書に書かれたキリスト処刑の光景は殆ど知りませんでしたが、この像は「イエスの最後の晩餐」からキリストの磔刑・昇天までの有名な場面が石の彫刻で表現されていることを、最近インターネットで知りました。 そして、写真の彫刻は「ペテロの否認」をあらわしているものと知りました。 ペトロは、3回イエスのことを知らないと否認しましたが、その後、回心し、積極的にキリストの教えをひろめたようです。 このペトロの彫刻は、キリスト教が広く信じられるようになることに、重要な意味を持つものだと改めて知りました。 この場面は、多くの歴史的な画家が絵画で表わしています。しかし、現地で見た彫刻の迫力に圧倒され、その形が強く心に残りました。 


この石の像も、法被を着て手を振ってくれた外尾さんがコツコツ彫ったのだろうと思うと、改めて感慨に浸ることができました。

ペテロの否認

ペテロの否認