浄土真宗 正信寺
正信寺
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住職のこぼれ話(27)

信念とは、だれかに教えられて自分で信じることです。確信は、理論や理屈を超えて揺るぎのない事実として認識されることです。

平成31年1月6日のNHKスペシャルで「サグラダ・ファミリア 天才ガウディの謎に挑む」が放映され、建築の最新の状況が放映されました。 多くの方もご覧になったことと思います。

住職のこぼれ話(16)「気さくな偉人」で、20年前にスペインを旅した時に、サグラダ・ファミリア(聖家族贖罪教会)を見学しましたことを書きました。 その中で、ハッピ(法被)を着た若い姿の外尾悦郎さんが観光に来た日本人に向かって手を振ってくれましたことに触れました。

今回の放映で、外尾さんが60歳を超えても活発に活動されていることを知りました。

信念と確信

完成像が不明確だったサグラダ・ファミリア

サグラダ・ファミリアは、建設途中にもかかわらず2005年に世界遺産に登録されました。 サグラダ・ファミリアを設計したアントニ・ガウディ(以下ガウディと省略)は、1926年、バルセロナの市電に轢かれて死亡してしまいます。 設計と建築に没頭していたガウディは身なりを気にしていなかったので、轢死した遺体がガウディとわからなかったといわれています。 また、教会はスペイン内戦で破壊され、建物は大きな被害を受け、設計図面も焼失してしまいました。

現場には多くの形や色の破片などが残されていましたので、これらの細かい破片を苦労して、つなぎあわせて組み立て一つの形に復元したそうです。 多くの部分をつなぎ合わせ、元の姿に戻していくことは、ガウディの考え方を建築家や石工などが理解するのが近道だったと思います。 ガウディの不屈の宗教的信仰に共感できることも重要だったのではないでしょうか。

外尾さんの努力

外尾さんは京都市立芸術大学美術学部彫刻家を卒業して、非常勤講師をしていたのですが、「石を彫りたい」という気持ちにかられ、 教師を辞めヨーロッパ旅行に出ました。

建築中のサグラダ・ファミリアを訪れ現場を見て大きな衝撃を受け、1978年から現在まで約41年間、一人の石工として、還暦を越えて現在の年齢(66歳)まで現場で彫刻を担当しました。 15体もの天使像の彫刻や、そのまわりの細かい草木や小動物、また入口の大きな彫刻「生誕の門」を造りました。

建築に携わる人は、1年契約です。40年石工として働き、2013年に主任彫刻家になるということは、外尾さんの信頼がいかに厚いかわかります。 外尾さんは、方向性に迷うと、ガウディの考えに寄り添うため、教会の地下に埋葬されているガウディのお墓に跪いて、手を置き、 頭を垂れてインスピレーションを得るようにしていました。

近年発見された遺品

最近、設計図や部品の色や形の模型が洞窟のような場所に多く残されていて、完成の姿の詳細が分かるようになりました。 残されている多くの色のサンプルの部品や彫刻の資料は、今後の建築に役立つことでしょう。

それらを組み建てるまで外尾さんは石を加工しながら、多分キリスト教などを勉強し、ひょっとすると洗礼を受けたのではないかと想像しました。 信者になれば、心の中にキリストの生涯やカトリック教会の教えや信仰があって、その心の上に、旺盛な推理や洞察力を駆使して彫刻が造られているとすれば、納得できます。

そうなれば、サグラダ・ファミリアの石工としての作業は、外尾さんにとって、信念から確信になるのだと思います。

最後の建築を任された外尾さん

サグラダ・ファミリアで完成している8本の塔は、すべて天を目指して高く伸びていますが、その中心部には、それよりも高いイエスの塔の建設が予定されています。 教会の中心となる大聖堂の屋根に当る場所で、サグラダ・ファミリアの建築では総仕上げになります。 その内部を飾る装飾が、一切外尾さんに任されているそうで、日本人として大変名誉なことだと思います。 放映された映像を見ると、外尾さんの創作苦労は並大抵のものではないことが分かります。 キリスト教への深い信仰と設計者ガウディへの尊敬がなければ、意欲が萎えてしまうのではないでしょうか。

この塔の内部は、地球創造の物語やキリストの出現の様子を壁いっぱいに石の板で表現するものです。 朝を表現する石のパネル製作では、朝や地球創造の初めの部分の色あいの変化を表現するのに多くの試作品を作成し、妥協すること無く、壁の色を作り上げていました。 外尾さんが「オッケイ」と言うまで、やや赤みがかった明るい紫色の何ともいえない色のパネルを、外尾さんのイメージする表現ができるまで試していました。 この完成への執念は、製作する二人が人種や文化の差を乗り越えて成し遂げる崇高な作業だと深く感銘を覚えたものでした。

外尾さんと石材業者の、「いいものを製作しよう」という気概が、ひしひし感じられました。

2026年に完成する予定のサグラダ・ファミリアを、できればスペインに行って実物を見てみたいものです。 私は、そのころ94歳になっていますが、それまで頑張って生きたいと思います。